演出のことば                坂東冨起子

世界では、貧困と飢餓のために今日もたくさんの子供達の命が失われています。かつては日本も、そうでした。『ゆきと鬼んべ』の背景には、そんな時代があります。盲目のゆきは赤ん坊の時、飢餓の年に捨てられました。一方、どうしようもない泣き虫わらしだった鬼んべは、一人で強く生き抜かねば山の主にはなれないと捨てられました。山んばは身を切る思いで、わが子を手放したのです。
そんな逆境のなかで育った二人の子供が出会います。自らの身を捨てて村人の命、畑の作物の命、みんなの命を守ろうとするゆき。鬼んべは自問します、自分が「しなくちゃならねえ事」は何だ?その答えが見つかった時、弱虫の鬼の子は初めて勇気に目覚めます。困難にぶつかり、試練を乗り越えて大きくなっていくゆきと鬼んべ、そして今を生きる子供達の成長にエールを送ります。
 監修のことば            ふじたあさや

さねとうあきらさんの『ゆきと鬼んべ』は、たんぽぽでは三回目の舞台化になります。ぼくもほかの劇団でやっていて、今回は二度目です。上演のたんびに工夫して、やり方を変えてきました。今回などは、さねとうさんの了解をもらって、原作の物語を分解し、組み立てなおしてみました。
でも、どういうふうにやってみても、この物語はくずれることはありません。それは、ゆきと鬼んべと山んばの三人の関係が、しっかりとしているからです。できそこないの鬼んべが強い山の主になるためには、自分を変える必要があります。はたして変えることができるかどうか、山んばは祈るような思いで見守っています。ゆきは、竜神のため、ひいては人々のために、自分を投げ出しても役立ちたいと思いました。そういうゆきを観て、ゆきのために役立ちたいと思った時、鬼んべは自分を変えることが出来たのです。
この物語がこんなに力強いのは、このテーマが、人間が成長していくときに必ず通らなければならない関門だからでしょう。そして同時にそこには、さねとうさん自身の、できそこないの自分を鞭打つ思いがこめられているからでしょう。さねとうさん自身にとっての「青春の書」だから、この本は、くずれようもなくしっかりとした物語なのです。
 低学年から高学年まで歌や太鼓の演奏、龍の演出など、どの子も興味津々で真剣に観ていました。
 普段、子どもたちは生の音楽や演劇に触れる機会がなかなかありません。そのため今回上演していただいたことで、普段の授業の中では味わえない、音楽の楽しさや身体全体で表現をすることのおもしろさなどを感じることができました。
 今後も、生の音楽、視覚に訴える舞台表現など、子どもたちが感性を豊かにできるような劇を観せていただきたいです。
                                   静岡県御前崎市 D小学校
 
 おもしろい場面や感動する場面があり、子どもたちがどんどんひきこまれていく劇でした。生の声や、大きな身振り、音の演出など、子どもたちに迫ってくるものがあり、大きな反響がありました。低学年の子どもたちにとっては少し難しいかなぁという言葉も出てきましたが、集中して観ていた様子から、劇に込められたメッセージを受け止めているように感じました。
 劇の後に子どもたちが、「あの声すごかったー!」「どうしてあんなに大きく出るんだろう。」など、劇の内容だけでなく、たんぽぽの皆様について話をして盛り上がっていました。3年生や4年生では、「劇をやってみたい!!」という声が上がり、大きな影響を与えてくれました。
                                 静岡県掛川市 O小学校
先生から届いた感想
 ぼくは音楽の迫力と声の大きさにびっくりしました。
 おにんべとりゅうじんのたたかいがすごくかっこよかったです。
 ゆきの勇気は、ものすごく大きなものなんだと思いました。ゆきの目があいた時は、ぼくもうれしくなりました。
 やまんばがりゅうじんとわかったときはすごくびっくりしました。
 声の大きさはすごくお手本になりました。来年もきてください。
                             静岡県掛川市 0小学校 ?年生さん

 わたしは、ゆきの目が見えないのにゆうきのある、やさしい所が好きです。
 おにんべは、はじめは、まよっていたけど、しぬかもしれないのに、ゆきを守ろうとする所がやさしいと思います。
 でえでらぼうは、人間たちのすてた赤んぼをほりだして、育てる所がやさしいと思います。
 てんぐは、おにんべをはげましていてやさしいですね。
 今日は本当にありがとうございました。
                             静岡県掛川市 O小学校  ?年生さん
子どもたちから届いた感想
ゆきと鬼んべ舞台写真
ゆきと鬼んべ舞台写真
ゆきと鬼んべ舞台写真
ゆきと鬼んべ

 トップページ 主な上演作品

原作/さねとうあきら  潤色/久野由美
演出・振付/坂東冨起子 監修/ふじたあさや
音楽/清元栄吉      衣装/中矢恵子
美術/矢羽田輝伸     照明/坂本義美
音響/山北史朗
制作/上保節子

            
 
おはなし
 お山は、三年ごしの日照りで、ぽちっとも、雨が降らねえ年だった。
 目の見えないゆきは、りょうしのお父うにつれられて、山の畑の豆を世話していた。
 ある日、ゆきは山オニの鬼んべと出会い、大竜巻にまきこまれて、山の墓場デェデラ谷へ飛ばされてしまった。
 谷のおくは洞穴で、中にすずなりのあかんぼが泣いている、おっそろしい日照りが続く飢饉(ききん)の年にゃ、百姓たちは、貧乏で育てられなくて、じぶんの生んだ子を土にうめてころす――。山の墓場の番人のデェデラ坊は、それを地べたの神さまが生みなさった子じゃと、みんなほじくりかえして育てているのだ。
 そして、この日照りは山のあるじのりゅうじんが熱やまいにかかり、雨をふらすことができないからだと、デェデラ坊にきいたゆきは、生きてふたたびもどったものがないという、おっそろしいりゅうじんの山へ、「いのちを助けるためだったらなんにもおっかなくねえ。」とたったひとりでのぼっていった。
 鬼んべも大好きなゆきを何としてもたすけようと勇気をふるいおこし、ゆきをおいかけてりゅうじんの山へ向かうのだった。
 ――そこには、弱虫の鬼んべはなく、人間どもに、しなくちゃなんねえことを、きっぱり教えてやる、鬼の面がまえがあった――。